「この木は、どこから来たの?」


アトリエの子どもにそう聞かれた時、目の前にある木材を通して、その背景にまで想像を広げている事に対する驚きと、その問いに答えられない情けなさを感じた事がありました。

素材についての背景やストーリーを知る事は楽しさの一つとなり、世界を広げるきっかけになる。そしてそれは子ども達の美術表現の場から始める事もできる。これまでも自然素材を多く使用していましたが、その出来事以降、素材について今まで以上に考えていきたくなりました。

そこで、できる事ならば子ども達がイメージできる距離にある森林が良いと思い、アトリエがある横浜市から近い、東京都檜原村の林業会社「東京チェンソーズ」さんに相談したところ、「ぜひ一度、山にいらしてみてください。」とお声がけいただき、檜原村の森林へ見学に行くことになりました。


「東京チェンソーズ」さんは、林業の枠組みを幅広く捉え、森や木が1つの命として大切にされる未来を目指して活動をされている魅力的な会社です。(異業種出身の方が多く、美大のデザイン科出身で子どものアートスクールでアシスタントされていた方が働かれているのも嬉しい偶然。)

スタッフの方々に案内いただきながら管理されている針葉樹の森林に入っていくと、空まで真っ直ぐ伸びている美しい空間が広がっていました。そして土を掴むように伸びる力強い根っこ、生き生きと広がるトゲトゲの葉、綺麗な黄緑の実など、木の姿全体が見えてくるようでした。板材になった材木からは見えなかった(といよりも意識して見ることはなかった)姿を感じました。


「この自然の中で子ども達が創作するとしたらどんな事ができるだろう?」「季節を感じる素材を制作で使うのはどうだろう?」と、一緒に山を歩きながら子ども達の創作する姿を想像した楽しい時間でした。そして、様々なお話をする中で、森/子ども/アートを通して協働していくことも視野に入れながら、今後も交流していく事、創作プログラム用木材の発注や端材の提供もお願いできる事になりました。


子どものアトリエという小さな表現の場が、少し離れたところにある大きな自然と繋がりはじめました。


提供頂いている杉や桧の木材は、アトリエや保育園などで使用し始めています。製材の工程でうまれる端材のため、不思議なカタチをした木や板、樹皮のついた枝や葉っぱ、木の粉などが子ども達にたくさんのひらめきを与えてくれています。

形やサイズは不揃いですが、木材の中から使いたい木を探しながらの創作は、自然の面白さや不思議さを発見し、創作において発想を広げ、豊かな表現力のきっかけとなっていくように感じています。また、自由な素材の使用方法は、未来のモノ作りをこれから担う子ども達の可能性を広げるだけでなく、子どもの視点ならではの木材の新たな魅力の発見につながるかもしれません。


ギコギコとノコギリで木を切る音、手に伝わる振動。つるつるザラザラした木肌。豊かな香りなどが五感を働かせ、それらの体験を通して、少し離れた自然を感じ、森林を守る人々が存在する事を想像し、自然を大切に想う心が芽生えたら。子どもたちの未来につながる「モノ作り」の中で「自分が使う物がどこでどのように育ち、手元に今あるのか」について意識できるような取り組みを今後も継続できればと考えています。

作る事を通して伝える事も大切に。今後も子ども達だけでなく、成長をサポートする大人も共に学ぶ事のできる試みを続けていきたいと思います。

美術造形教室ぷらすあーと
こいちりょうじ